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お口の中の悪い奴ら〜口腔細菌の犯罪白書〜

皆さんこんにちは、中里デンタルクリニックの松田です。ゴールデンウィークも開け仕事や、学校が始まった方がほとんどだと思いますが、いかがお過ごしでしょうか?当院では新人さんが2人入社してきて頑張って練習などをしてくれています。 さて、今回のお話は、口腔内細菌のお話です。みなさんは、お口の中に1000種類以上の菌が存在していることをご存知でしょうか。きれいに歯磨きしても100億個が棲み、雑だとなんと一兆個もあるなんてお話もあります。切っても着れない細菌との縁。上手に付き合っていく必要があります。今回はそんなお話です。 トレポネーマ菌はらせん状の細菌スピロヘー夕(らせん状の毛に由来)に属する細菌です。 トレポネーマ菌にはさまざまな病原性をもつ種類がおり、いずれもたいへんなクセ者ですが、今回はそのなかでも、悪玉歯周病菌の総帥、ジンジバリス菌とタッグを組む口腔細菌の「トレポネーマ・デンティコーラ」を取り上げたいと思います。 本題の前に、トレポネーマ菌の特徴から解説しましょう。トレポネーマ菌は、回転する糸状の細菌で、菌体に絡みつく軸糸を伸び縮みさせ、きりもみ運動で細胞に入り込みます。この菌が怖ろしいのは、侵入するときに細胞の免疫応答をすり抜けること。やつらは侵入者でありながらまるで親戚や友達のような顔をして、免疫に排除されずに棲み続けます。さまざまなトレポネーマ菌のなかでも有名なのが、野口英世博士が研究し、現在わが国で若者を中心に感染者が増えている性感染症の病原体、梅毒トレポネーマ菌です。 「人類のために生き、人類のために死せり」と称された野口博士は、感染症との戦いに献身しましたが、その業績のなかでも燦然と輝くのが梅毒トレポネーマ菌の研究です。「英世はいつ寝るのか」と言われるほど研究に没頭し、亡くなった患者の脳の中に潜む梅毒トレポネーマをついに発見しました。 さまざまいるトレポネーマ菌の仲間のなかで、私たちの口に棲みつき悪事を働く細菌が、口腔トレポネーマ菌のトレポネーマ・デンティコーラです。 歯周病原菌の惠玉三兄弟ジンジバリス菌や、タンネレラ菌とタッグを組み「悪玉3兄弟」を結成するのがこの細菌です。 歯周ポケット内で爆発的に増える歯周病原菌のトレポネーマ菌は、タンパク質分解酵素のデンティリシンをもっています。この酵素は細胞を破壊するだけでなく、免疫細胞マクロファージをだまして食べられないようにやりすごし、細胞内にスルリと侵入するための毒素です。 歯周病原菌のトレポネーマ菌は、この毒素を使って歯周ポケット内で、知らぬふりで生存し続けるだけでなく、マクロファージの働きを抑制します。そして歯周ポケットの上皮、歯ぐきに感染、細胞をきりもみ運動で突き抜けるとからだの血管へも入り込みます。 このときトレポネーマ菌は、自分だけでなく、仲間のジンジバリス菌やタンネレラ菌をマクロファージから守ります。 やつらはマクロファージを丸めこむトレポネーマ菌に便乗してからだの血管に侵入し、ベタベタの血管内壁プラークをつくります。 こうして動脈硬化症を進行させ、いのちを脅かすのです。 次回は、脳内に入り込んでアルツハイマー型認知症に関与するトレポネーマ菌についてお話しします。